全国に介護施設180事業所を展開するヒューマンライフケア。独自の社内資格「ケアテクニカルマイスター」を取得した飯干亮揮は、この制度が介護スタッフのモチベーション向上や離職率の改善に大いに役立つことに気づきました。介護の現場で働く人々とご利用者様に向けた理想の環境づくりに熱意を注ぐ、飯干の想いとは。
「あなたの施設だからここに来ているのよ」 その一言を励みにして
飯干は2010年、新卒で介護職員としてヒューマンライフケアに入社して以来、さまざまな業務を経験してきました。最初に配属されたデイサービス施設は新規オープンの拠点だったため、介護スタッフとして働くかたわら、営業活動にも携わりました。
その後、別のデイサービス施設で生活相談員として勤務し、訪問介護施設の管理者、デイサービス施設の営業担当を経験。入社3年目で、新規デイサービス施設の立ち上げから関わり、所長を任されるまでになりました。
飯干「管理者の主な仕事は、施設の運営・管理・マネジメントです。ご利用者様やスタッフが快適に過ごせる環境の整備はもちろん、ご利用案内や来客対応、スタッフ教育や勤怠管理、地域のケアマネジャーとのやりとりなど、業務は多岐にわたります。
所長になると、そうした管理業務に加え、施設の経営にも関わることになります」
介護職員として入社した社員が、営業や新規拠点の立ち上げなどに関わることは、当時はまれなケースだったといいます。しかし、「ずっと同じことをしているよりも、いろいろなことを経験して刺激を受け、成長したい」と考えていた飯干にとっては、いくつもの施設で幅広い業務に携わることは、性格や希望に合っていました。
管理者や所長として飯干が心がけてきたのは、現場で最大限の努力と工夫をして、介護が困難な人も、できる限り受け入れていくことです。
飯干「ご利用者様から『あなたの施設だからここに来ているのよ』という言葉をいただいたり、取引先のケアマネジャーから『飯干さんのところしか、この方は頼めないから』と言われたりしたときは、とても嬉しかったですし、やりがいを感じました。
自分たちの施設がご利用者様やご家族様から頼りにされ、困っている人たちの助けになっているという証ですからね」
幅広いタイプの要介護者を受け入れることは、スタッフにとっても貴重な経験になると飯干は考えています。
飯干「特定のタイプの要介護者や、いわゆる『手のかからない人』ばかりを受け入れていると、スタッフはそれに慣れてしまいます。
食事の提供方法や介助のやり方ひとつをとっても、さまざまなタイプのご利用者様に接することでスタッフの経験値やスキルも上がりますし、サービスの質も一層向上すると思います。それが介護施設の評価を高めることにつながり、最終的には経営にもプラスに働くはずです。 だから私は常々『ご利用者様やご家族様は自分たちの施設を頼ってくださっているのだから、ご期待に応えられるよう、みんなで頑張っていこう』と伝えてきたんです」
ケアテクニカルマイスターの資格取得で得た、新たな発見
多くの介護施設で、管理や運営までトータルして経験を積んだ飯干。2017年4月には、南関東地域に展開する施設の運営を指導するSV(スーパーバイザー)に任命されます。
これは、グループホーム(認知症と診断された高齢者が、介護職員のサポートを受けながら、家庭的な環境の中で共同生活を送る居住施設)や、小規模多機能型居宅介護施設(自宅で暮らす地域の高齢者へ、昼間の通いや夜間の宿泊、訪問など多様な介護サービスを組み合わせて提供する施設)を巡回し、運営やサービス品質の向上のためにさまざまなアドバイスをおこなう仕事です。
SVの仕事をはじめたことをきっかけに、飯干は「ケアテクニカルマイスター」の資格取得に挑戦しました。
ケアテクニカルマイスターとは、ヒューマンライフケアの介護サービスで働く全スタッフを対象とした、介護技術を認定する社内資格制度。基礎的な介護技術と知識を身につけた人に与えられる「シルバーマイスター」から、より高度な技術・知識とスタッフを育成するスキルを身につけた人に与えられる「ゴールドマイスター」と「プラチナマイスター」の3段階があります。
飯干が挑戦したのは、ゴールドマイスターです。資格取得のために受講した指導者養成講座では、自身にとっても新たな発見があったといいます。
飯干「講座で特に感銘を受けたのが、『根拠を伝えたうえで説明・指導することの大切さ』です。介護技術を教えるとき、『なぜ、この手順でおこなうのか』『どのような介護理論に基づいているのか』という根拠をきちんと伝えることによって、相手も理解しやすくなります。
これまで後輩や新入スタッフを指導する際、根拠を伝えるという視点が抜けていたな、と気づきました。実技試験では試験官の前で15分ほど研修を実演しましたが、このとき試験官から、人前でプレゼンをおこなう際のコツをアドバイスいただいたことも、いまとても役に立っていますね」
ゴールドマイスターの取得後、2017年10月から、飯干は人材育成を担うCT(チーフトレーナー)も兼務することになります。
飯干「上司から、『人を育てる力もつけてほしい。人材育成の面で自分を磨いてみてもいいのでは?』と勧められ、CTに任命されました。
CTは、各拠点で人材を育成する立場の人たちを指導する仕事です。スタッフを直接指導するのとは違う難しさもありますが、仕事の幅が広がる面白さも感じることができました」
介護スタッフの「モチベーション向上」と「離職率の改善」を目指して
飯干は、自身が担当する南関東包括エリアの各拠点の介護スタッフに向けて、 ケアテクニカルマイスターの取得を推奨してきました。
飯干が所属する関東包括エリアで、2018年度にケアテクニカルマイスターを取得した人は71名に上ります。これは、全事業部でトップの取得人数です。
飯干「関東包括エリア全体で、正社員全員にシルバーマイスターの取得を推進していこうと力を入れています。
資格取得者からは、受験を通じて『初心に戻り、基本に返ることができた』『いままで自分に足りなかった部分が改めて発見できた』という声が多く上がりました。安全・安心な介護サービスの提供につながるのはもちろんのこと、スタッフの意識向上を図るうえでも、とてもいい制度だと感じています。
研修でも、知識や技術を学ぶことはできますが、インプットが主体で受身になりがちです。しかし、資格取得のために勉強して試験を受けることはアウトプットなんです。インプットだけではなかなか身につかないことも、実際に自分から実践することで身につきやすくなります」
介護技術や知識の習得に加え、ケアテクニカルマイスター制度の大きなメリットとして飯干が実感しているのは、介護スタッフのモチベーション向上です。
飯干「当社では、ケアテクニカルマイスター制度と連動したかたちで、キャリアパス制度が用意されています。マイスター資格を取得すると昇給やステップアップにつながり、仕事のうえでの目標や将来像を描きやすくなります。
社内調査では、入社後半年から1年くらいの早期にマイスター資格を取得した人は離職率が低い、というデータも出ています。 スキルが社内資格としてきちんと評価され、将来の目標が見つけやすくなれば、仕事に対する各人のモチベーションも高まり、離職率の低下にもつながると期待しています」
グループホームや小規模多機能型居宅介護施設では泊まり勤務があり、一般的にデイサービス施設などと比べると利用者の要介護度も高めで、仕事に慣れるまでは大変な面もあります。そのため、1年以内の短期間で離職してしまう介護スタッフも、残念ながら少なくありません。
介護スタッフが志半ばで辞めることなく、『ここで自分を磨けるんだ』という希望と向上心を持って働ける環境をつくりたいと考えてきた飯干にとって、ケアテクニカルマイスター制度は力強い援軍となる制度だったのです。
介護の仕事を通じ「自己成長とステップアップ」ができる職場環境を整えたい
2018年12月、飯干は複数施設をマネジメントするブロック長に着任。東京都立川市・府中市、川崎市、多摩区のグループホームと小規模多機能型居宅介護施設、合計5拠点を管轄する仕事に就いています。
ブロック長は、担当拠点の管理や指導全般を担います。その内容は、各拠点の事業計画の管理、営業指導・支援、求人依頼・面接・採用、コンプライアンスの遵守、サービス品質のチェックや理念・美化・接遇の巡回時指導、クレーム対応と、多岐にわたっています。
将来的にはエリア長として、より広い範囲の拠点を管轄していける人になりたいと語る飯干ですが、根底にある、今後も大事にしていきたいことは変わらないといいます。
飯干「介護に限らず、どんな仕事でも『ずっと現状のままでいい』と思って働いている人は少ないはずです。自分の仕事が人からきちんと評価され、『将来こうなりたい』という目標が明確になれば、現在の仕事に対するやりがいや、成長への意欲もわいてくるはず。
介護に携わるスタッフみんなが、希望と向上心を持って働ける環境を整えることが、各拠点のサービスの質の向上につながりますし、ご利用者様や地域から信頼され、必要とされる介護拠点として定着していくことにもつながります」
働く人たちが介護の仕事を通じてスキルを磨き、成長しながら、思い描いたとおりのステップアップができる職場の実現を、飯干は目指しています。
※2019年1月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。肩書き・役職等は取材時のものとなります。