ヒューマンビジネスイノベーション

アリーナ・スポーツ 2017/08/03

【インタビュー】学び働く人vol.12卓球男子日本代表フィジカルコーチ 田中 礼人さん


【プロフィール】
201700710_ha_02.jpg 田中 礼人(たなか あやと)さん(33歳)
1983年、埼玉県生まれ。高校までは甲子園を目指し野球に打ち込んだ。高校在学中にスポーツトレーナーの仕事に興味を持ち、高校卒業と同時に総合学園ヒューマンアカデミー東京校スポーツカレッジに入学。その後、仙台大学体育学部体育学科を卒業し、2007年から森永製菓株式会社のウイダートレーニングラボで、トップアスリートの指導を行う。2010年より卓球男子日本代表ストレングス&コンディショニングコーチ。

2017年6月、味の素ナショナルトレーニングセンターでは、「こんにちは」と元気な声とともに、若い選手が目を輝かせて会場に入ってくる。躍進の続く日本卓球界。2016年のリオ五輪では男子団体が銀メダルを獲得したほか、エース水谷隼選手が日本勢初の個人種目の表彰台となる銅メダルを獲得した。2017年の世界卓球選手権ドイツ大会でも快進撃は止まらず、混合ダブルスで優勝、男子ダブルスで準優勝と3位に入賞するなど好成績を収めている。その男子代表チームをフィジカル面で支えるのが、ストレングス&コンディショニングコーチの田中礼人さん。日本代表のフィジカルコーチ就任に至るまでの過程と、仕事に対する思いについて聞いた。


スポーツに携わる仕事がしたい。人生を決めたインターンシップ
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田中さんのキャリアの始まりは高校時代にさかのぼる。小学校、中学校、高校と野球少年だった。強豪校・埼玉栄に入学し、甲子園を目指していたが、高校3年生で野球部を引退すると、ふと将来を考えた。「正直、野球で生活するのは難しい。その後の就職を考えたら、大学で経済などを学ぶ方がいいのかなとも考えました。でもこれからの人生、40〜50年働くなら、スポーツに関わりたかった」。そこで興味を持ったのが、トレーナーの仕事だった。

高校卒業後、総合学園ヒューマンアカデミー東京校スポーツカレッジに入学。学ぶうちにトレーナーとしてのキャリアを描いていく。授業はもちろんだが、「特にインターンシップで1年間、東京ガスのラグビー部さんにお世話になったことが大きい」と田中さん。現場の活動を肌で感じられたことが、現在に繋がっているという。社会人ラグビーのため、練習は夕方5時から。その前にマッサージをする簡易ベッドを用意したり、テーピングの準備、プロテインや飲み物の手配、クールダウンのための水風呂の準備などを行ったりしながら、練習の仕方やアフターケアの仕方などを学んだ。「ラグビーはコンタクトスポーツなので、ものすごい量のテーピングになります(笑)。トレーナーと選手との関わりはもちろん、トレーナーと監督やコーチの関わり方など、勉強になりました」。

もっと深く勉強したいと仙台大学2年次に編入。教職課程をとる一方、トレーナーとしての研究を行った。CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)やNSCA-CPT(認定パーソナルトレーナー)などの資格を取得したのもこの頃だ。

トップアスリートの指導から日本卓球協会へ
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2007年仙台大学を卒業し、就職したのは、森永製菓株式会社のウイダートレーニングラボ。トップアスリートが訪れるこのラボで、最初に担当したのは大相撲の貴乃花部屋の力士たちだった。週3日ほど、ラボに来てもらって指導していたが、「たまに朝稽古にうかがって親方と話をしたりしていました」。相撲は立ち合いで6〜7割、勝負が決まる。「スクワットやオリンピックリフティングに重点を置いて向上させました。立ち合いが良くなると面白いように成績もよくなるんです」。そのほか、ラクロス、野球、サッカー、ハンドボール、バトミントン、ビーチバレー、格闘技まで担当したが、卓球だけは指導経験がなかった。

そんな中、日本卓球協会からウイダートレーニングラボにトレーナー派遣の依頼が入る。当時、日本の卓球選手は、ヨーロッパや中国の選手に比べてフィジカル面が弱く、慢性的なけがが多いという課題を抱えていた。そこで、田中さんにフィジカルコーチの役割が打診されたのだ。「卓球はそれまで経験がありませんでした。でもトレーニングのベースは一緒。応用は現場で学んでいきますが、原理原則を外れないことが大前提ですから」。さらに、じっくりと向き合ったトレーニングができることも魅力に感じた。「ウイダートレーニングラボでは、週に1〜2回しかアスリートと会わないのですが、フルタイムで、選手の日ごろの成長や変化を見てみたかった」。こうして、卓球男子日本代表フィジカルコーチの職に飛び込んだ。

コミュニケーションで"人間力"も育成
20170710_hr_02.jpg 田中さんは現在、水谷隼選手や、丹羽孝希選手をはじめとする男子ナショナルチーム7人、18歳以下の男子ジュニアナショナルチームの13人、男子ホープスナショナルチームの14人をはじめ、候補選手やJOCエリートアカデミー所属の選手のトレーニングを担当している。今、成長が著しいとメディアも大注目の張本智和選手も田中さんがトレーニングを指導している選手のひとりだ。1年のうち、150日ほどが合宿、150日は海外遠征に同行。約50人もの選手を指導するうえでの心構えを聞くと「コミュニケーション」という答えが返ってきた。「選手には自分の方から話しかけるようにしています。もちろん、トレーニングの時には親しすぎるのもだめですが、それ以外では、趣味の話を聞いたり、できるだけほめたりもしています」。

若い選手には教育的なことを話すこともあるという。「合宿で朝の散歩、体操、食事を共にしている中で、たとえば栄養士さんの言うことを聞いているかとか、ほかの競技の人にも挨拶をするとか、使ったものをきれいにするとか、基本的なことで気が付いたことを伝えています」。その根底にあるのが、人間力。「スポーツ選手は応援してもらって活動できています。また、低迷期に競技者と指導者の育成を始めた先人の熱い思いがあったから、安定した結果が出て今がある。そういう心構えを理解して、きちんとした大人になってほしいと思います。そこは大学の教職課程での経験が生きているのかな」。

躍進の続く日本卓球界。そしてこれから...
20170710_hr_03.jpg 日本卓球界は躍進が続いている。2016年のリオ五輪では男子団体で銀メダルを獲得、日本中を感動の渦に巻き込んだ。「中学生のころから練習を見ている選手がオリンピックや世界選手権などの大きな大会でメダルを取るなど、結果が出たときはやはり嬉しいですね」と田中さん。1年で300日以上を一緒に過ごすので、チームは家族以上に家族のようなものだという。2020年に控える東京五輪に向けて、日本国内からの期待も高い。「日本卓球は、技術・体力ともにまだまだ伸びます。もっと効率よく、効果的にトレーニングできるはずだと思っています」。休日にも、トレーニングに関する文献を探したり、トレーナーの先輩や仲間と情報を交換したりと研究も欠かさない。

そんな田中さんを支えてきたのは、向上心だ。「ヒューマンアカデミーは、先生との距離が近かった。インターンもいい経験になりました。大学時代も、所属ゼミ以外のゼミをのぞかせてもらったりしました。授業を聞いて、先生に質問して、インターンで学んで。貪欲に学んでいきました」。そうして"貪欲に"培ってきた人との縁は今でも続いている。「最後は信頼関係。必要としてくれるところで結果が出せるように頑張りたい」。田中さんの向上心と人間力が、日本卓球界、そして日本のスポーツ界を支えていく。

※2017年6月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。肩書き・役職等は取材時のものとなります。


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