【Business Scope】東京工業大学の学内保育所「てくてく保育園」

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女性が活躍する社会を実現するために欠かせない保育所。待機児童の数が増加し、受け入れ施設の拡充が求められている中、注目されているのが、2015年4月に制度が整った「定員の一部を地域に開放する事業所内保育所」や、2016年4月に開始された「企業主導型事業所内保育所」だ。こうした状況下、前者の制度に基づいて、東京工業大学が2017年4月、学内保育所「てくてく保育園」を開設。ヒューマンライフケアが運営を受託した。世界トップクラスの大学が学内保育所を開設したその理由とは――。事業所内保育所運営に求められるものとは――。開園したばかりの「てくてく保育園」を訪ねた。


グローバル化推進に保育所設置は重要事項 多文化を認められる園へ

 閑静な住宅街に囲まれた東京工業大学の大岡山キャンパス。その国際交流会館本館1階に学内保育所「てくてく保育園」がある。東京工業大学の英語Tokyo Institute of Technologyの「Tech」と、子どもたちが"はいはい""よちよち"から"てくてく"へ健やかに育っていくようにとの願いがその名前に込められた保育園では、8人の子どもたちがのびのびと過ごしていた。白い壁と木目の床の清潔感あふれる空間に、穏やかな時間が流れている。

 東京工業大学では、「世界のトップ10に入るリサーチユニバーシティ」の実現を目指し、教育・研究における改革が進められている。多くの優秀な外国人研究者や留学生の受け入れを進めているが、子どもを保育所に預けられないことを理由に、研究活動や教育を中断して帰国してしまうことがあった。外国人に限ったことではない。日本人研究者や学生でも、年度途中からでは保育所に入れないため、教育や研究活動を一時的に中断しなくてはならないケースが増えてきた。こうした状況を受け、年度初めの4月からに限らず、研究者・学生の子どもを受け入れられる学内保育所を開設することにした。

 一方で、安定した保育所運営のため、地域とも連携した。2015年度から始まった子ども・子育て支援新制度による地域型保育事業の事業所内保育所として、定員の一部を東京都大田区に開放。2017年度は、定員12名のうち、地域枠を8名とした。4月には8名(地域枠7名、大学枠1名)が入園している。保育自体は日本語で実施するが、日本語が不自由な外国籍の保護者を想定し、英語を話せるスタッフも配置。バックボーンの異なる子どもたちが一緒に時間を過ごし、多彩な文化を大切にしながら共に成長できる環境を整えた。てくてく保育園そのものが、世界のトップレベルの教育・研究を行う大学としての東京工業大学の理念と合致する。


国立大学法人 東京工業大学
三島 良直 学長

世界トップレベルの大学として、国際的評価の向上を目指す本学では、現在、学士・修士課程で約12%を留学生が占めています。一方で、優秀な学生や研究者を迎えるに当たり、小さなお子さんのいるご家族にとって保育所は重要な問題でした。

保育所の設置はワールドクラスの大学ではスタンダードです。ところが、日本では一部を除き、まだまだ整備が進んでいない状況です。待機児童の問題を解決するのはもちろんですが、大学の国際化を推進する意味でも、本学にとって念願の開園となります。

国内外の研究者や留学生のお子さんを預かり、東京工業大学ならではの、国際的な雰囲気の保育園になると思います。今後も申し込み状況などニーズに合わせて、保育所の拡充も検討したいと思います。

評価されたヒューマングループの保育所運営

 「てくてく保育園」の運営を受託したのはヒューマンライフケア。ヒューマングループとして初めて事業所内保育事業を受託した。選考した国立大学法人 東京工業大学 広報・社会連携本部 男女共同参画推進部門 アドバイザーの林ゆう子博士は、「学内保育所開設の趣旨目的を十分に理解した提案だったこと」を理由に挙げている。ヒューマングループでは、ヒューマンライフケアとヒューマンスターチャイルドの2社が「ヒューマンアカデミー保育園」や「スターチャイルドナーサリー」のブランドで認可保育所や東京都認証保育所を運営。子どもたち一人ひとりが発揮する個性を受け止め、また、子どもたち自らの自己表現・思いの発信を待ち自己表現力を育てる方針で、保護者はもちろん、自治体など第3者からの評価も高い。保育内容が奇をてらうものではなく、乳児が家庭で普通に得られる環境に近いことも評価された。

 ヒューマングループの保育所の年間開設数は他社と比べて、決して多くはない。しかし、その分、地域性や保護者の要望に合わせた丁寧な対応ができる。てくてく保育園がある場所は、元は会議室として使われていたが、保育所の施設基準に合わせて大学側が改装。幼児用ロッカーや机・椅子等など備品をひとつひとつ、協議して選んでいった。これまでの経験をもとに、事故防止のため、園児が自分で開閉できない柵をトイレ内やホールと玄関の間に設置してもらうなど、保育がしやすい環境も一緒に作り上げていったという。一方で、大学の構内にあるため、一般の方が立ち入ることができないエリアが決まっているなど、学内ならではの制約もあるという。「様々な制約に柔軟にご対応いただいています。保育所の開設、特に、保育運営について、本学はまったくの初心者なので、ヒューマンライフケア株式会社に、区役所との折衝や保育運営のノウハウについて積極的に取り組んでいただき、大学にアドバイスいただくことを期待しています」としている。

 そして、もうひとつの強みはヒューマングループの教育制度。スタッフの職務に応じた階層別教育とスキルアップおよびスキルのブラッシュアップを実施するテーマ別教育を実施している。こうした研修はグループ会社であるヒューマンアカデミーが企画開発。株式会社としては初となる厚生労働大臣指定保育士養成施設「総合学園ヒューマンアカデミー東京校 チャイルドケアカレッジ こども保育専攻」や、日本で初めて英国国家職業資格BTECに認定された「チャイルドマインダー養成講座」の運営などを行っている実績を持つヒューマンアカデミーの質の高い研修を定期的に受けられることで、保育士の知識や技術を高い水準に保つことが可能となっている。

 受け入れ児定員12名の「てくてく保育園」は、定員に対する職員の配置基準を満たす、常勤保育士4名、看護師1名、栄養士1名が常駐することから始める。園長が英語でのコミュニケーションも担当する。0歳から2歳という成長が早い時期、子どもたち一人ひとりが聞く、見る、触れる、嗅ぐ、味わうなど感覚を豊かにする保育を実践するため、スタッフはもちろん、企業としてもグループシナジーを活かし、バックアップしていく。「グローバル化を目指す東京工業大学の希望にしっかりと応えることで次につなげていく」とヒューマンライフケアの藤岡英之は言う。保育事業は、今後需要の高まりとともに企業支援型を含む事業所内保育所への期待も大きい。ヒューマングループの挑戦は続く。


国立大学法人 東京工業大学
広報・社会連携本部 男女共同参画推進部門 アドバイザー
林 ゆう子 博士

保育所の開設にあたっては、手探りではありました。会議室を改装したため、建築基準法上の採光要件で定員が12人と小さな園ですが、子どもたちにはのびのび過ごしてもらいたいと思っています。留学生のお子さんの入園も決まり、地域と大学を繋ぐ国際色豊かな園として期待しています。運営に当たっては、学内ならではの様々な制約もありますが、しっかりご対応いただき、安心してお任せしています。


ヒューマンライフケア株式会社
保育事業本部
藤岡 英之

ヒューマンライフケアの堅実な保育園運営の実績が認められ、運営を受託させていただいたことを大変嬉しく思います。「てくてく保育園」の運営受託を皮切りに、グループとして事業所内保育事業に参入しますが、これまで培ってきた実績や保育の質は変わらずに進めていければと考えています。今後は、保育所の活動の中に、介護事業を活用した世代間交流や、グループのロボット教室をはじめとする児童教育事業や学童保育事業など、グループのシナジーをさらに生かした活動を提案していきたいと思います。

※2017年4月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。肩書き・役職等は取材時のものとなります。